01 : 告白 (64) |
鳶色の瞳が見開かれた。何か言おうとして、絶句したまま凍る唇。
所在なげにパイプが揺れる様を、その動揺を、九龍は笑顔で見つめ
ていた。 (皆守←葉佩) |
02 : 嘘 (64) |
血が伝う左手の剣も、わずかに引きずる歩き方も、疲労の見える顔
色も。 大丈夫だと振り向いた笑顔で、全て押し通せてしまうお前が 嫌いだ。 (皆守→葉佩/遺跡にて) |
03 : 卒業 (63) |
何度も門を見て、今に現れるだろう彼の姿を思い描いた。気がつけ
ば、独り取り残されていた。 誰もいない校庭。今年の桜はまだ咲か ない。 (皆守→葉佩/2005年3月) |
04 : 旅 (60) |
手にした地図から顔を上げると、相棒は元気よく出発を告げた。砂
埃を巻き上げて、白い雲を追いかけて。 いつか夢見た異国の道を。 (皆守+葉佩/未来) |
05 : 学ぶ (56) |
遺跡の暗闇に見失わないように、置き去りにされないように。その
ときはただ、父の背中を追いかけるだけで精一杯だった。 (葉佩/過去) |
06 : 電車 (60) |
屋上から身を乗り出した九龍は、ビルの間に見える車体を面白そう
に数えていた。緑色が山手線、橙色が中央線。何が楽しいんだか。 (皆守+葉佩/學園風景) |
07 : ペット (57) |
叱られた犬が、お預けを食らっているような表情だ。奪ったカレー
パンを差し出すと、根負けしたようにかじりついてくれた。 (皆守+葉佩/學園風景) |
08 : 癖 (58) |
ふわふわでくるくるでやわらかくて明るい色。手触りの良さに感動
して鼻先を埋めたら、思ったとおりラベンダーの香りがした。 (皆守←葉佩) |
09 : おとな (61) |
一挙一動に機嫌が左右される自分と、何事にも動じず明るく笑って
流してしまう親友。同い年だというのに、懐の広さは育ちのせいか? (皆守+葉佩) |
10 : 食事 (60) |
「本当にお前は美味そうに食うな」 「お前のカレーの食いっぷりに は負けるよ」 テーブルの上の二つの皿は、ほぼ同時に空になった。 (皆守+葉佩) |
11 : 本 (64) |
ページをめくる指とか、文字を追う真摯な瞳とか、時折難しい顔を
して考え込む表情とか、そんなものにすら見惚れる自分はどうかし
ている。 (皆守→葉佩) |
12 : 夢 (64) |
植木鉢の割れる音がした。伸ばした手は届かなかった。薄紫が朱に
染まる。滲んで流れて落ちてゆく。誰かが呼んでいる。誰かが呼ん
でいる。 (皆守) |
13 : 女と女 (62) |
女の子は恋愛話が好きだなと遠目に眺めて、改めて自分の現状に頭
を抱えた。世界が違って見えるのは、きっと眼鏡のせいだけじゃな
い。 (葉佩/6th.Discovery) |
14 : 手紙 (65) |
見るからに美味そうなカレーの写真に、「帰ってきたら食わせてや
る」と殴り書きの文字。早く帰ってこいって書かないのがお前らし
いよ本当。 (皆守←葉佩/未来) |
15 : 信仰 (59) |
神という名は冠せられずとも、信じるものはそこにあるとばかりに
祈りを込める。空を仰いで目を細めて、己を照らす暁の太陽に。 (葉佩/過去) |
16 : 遊び (64) |
屋上に現れた転校生に、あくび混じりの声をかけた。こんなものは
戯れで気紛れで暇つぶしだ。どうせ彼もすぐいなくなる、それまで
のこと。 (皆守) |
17 : 初体験 (63) |
境界線が、溶けて歪んで流れ出す。崩壊する自我の隙間を、侵食し
てゆくラベンダー。呼吸を止めた一瞬に、全てが音を立てて弾け飛
んだ。 (皆守×葉佩) |
18 : 仕事 (57) |
土と泥と埃と黴、刃と鉄錆と硝煙と血。情熱と信念と痛みを抱いて、
背負った傷痕を強さに変えて、自分は今日も生きている。 (葉佩) |
19 : 化粧 (54) |
頬も唇も白く塗って、鏡に映った自分の顔に満足した。床に転がっ
て呼吸を殺せば、あっという間に死体の出来上がり。 (葉佩/探偵喫茶) |
20 : 怒り (65) |
夕陽に映えたその顔は、穏やかな微笑のままだった。上等だ、一発
じゃ気が済まない。もう一度拳を握り締めて、九龍はにっこり笑っ
てみせた。 (皆守+葉佩/Epilogue) |
21 : 神秘 (64) |
川、森、雪、機械、黄金、砂、溶岩。多種多様なこの場所の、最後
は何が迎えてくれるのか。大穴を覗き込んで、行くぞと九龍は声を
かけた。 (葉佩/Last Discovery) |
22 : 噂 (64) |
聞こえてるくせに、肩を抱き寄せられた。気にしろよと囁いたら、
何がだととぼけられた。ああもう、こいつがこんなだから絶えない
んだよ! (皆守+葉佩) |
23 : 彼と彼女 (63) |
眺めているだけなら微笑ましいのだが、きっかけを思うと心の内が
騒ぐのは何故だろう。杞憂とはいえ、それでも気にせずにはいられ
ない。 (真里野+七瀬+皆守) |
24 : 悲しみ (62) |
見つめる瞳は動かなかった。青みがかった薄い色素に、湛えられた
それは静かな海のごとく。覗き込む者を飲み込まんとするかのよう
に。 (阿門+葉佩) |
25 : 生 (65) |
抱きしめると温かかった。耳を寄せると鼓動が聞こえた。困ったよ
うに揺れる瞳を見て、安堵に意識をさらわれた。縋りつく手も離せ
ないまま。 (皆守←葉佩/2004年12月24日) |
26 : 死 (65) |
手を取りたかった。抱きしめたかった。泣きそうな顔を見て、自然
と微笑が零れ落ちた。これでいい。遺跡よ、早くこの運命を終わら
せてくれ。 (皆守→葉佩/2004年12月24日) |
27 : 芝居 (64) |
親友だと彼は言った。そうだなと気のない返事をしたら、不満そう
に唇を尖らせた。不満なのは俺だ。そんな簡単な単語で言い表せる
ものか。 (皆守→葉佩) |
28 : 体 (60) |
意外に隙のない身のこなし、弾みをつけて起き上がるしなやかさ。
綺麗な指も長い足もその歩き方も、獲物を狙う肉食獣を思わせた。 (皆守←葉佩) |
29 : 感謝 (60) |
頼んでいない、救われたとも思わない、傷口が鮮明になっただけな
のに。それでも渡されたあの写真に、何故か少しだけ涙が滲んだ。 (皆守/Last Discovery) |
30 : イベント (61) |
心地よいざわめきが、學園全体を包み込んでいる。今日は一思いに
殺してねと笑って振り返ったら、友人はアロマパイプを噴き出した。 (皆守+葉佩/學園祭) |
31 : やわらかさ (60) |
平等な態度と、分け隔てのない言葉と、全てを包み込んで許してし
まう笑顔。誰を拒絶することもなく、振り撒かれるそれは武器だ。 (皆守→葉佩) |
32 : 痛み (58) |
ラベンダーは和らげるためなのか、逆に増幅させて刻みつけるため
なのか。もはや慣れてしまったそれは、今日も鈍く胸を噛む。 (皆守) |
33 : 好き (63) |
真実味がないと呆れられたけど、それでも根底から湧き上がる感情
は抑えきれない。だから何度でも繰り返し、素直に口にしてしまう
だけ。 (皆守←葉佩) |
34 : 今昔(いまむかし) (61) |
通りがかった校門は閉ざされていたが、あの頃感じた閉塞感はなか
った。後輩たちの声がする。見上げる空に、雲はゆっくり流れゆく。 (皆守/未来) |
35 : 渇き (64) |
すぐそこにある。けれどまだ届かない。あと少し、もう少し。せり
上がる焦燥、必死で伸ばした指の先。欲しいものは、本当に欲しい
ものは。 (皆守→葉佩) |
36 : 浪漫 (61) |
誰も見たことのないものを、ただひたすら追い求める。職業病かな
と笑う彼に、お前らしいよと肩をすくめて、笑い返して首を振った。 (皆守+葉佩/未来) |
37 : 季節 (61) |
風は冷気を含み、樹木は葉を落とし、落日はどんどん早くなる。巡
りゆくもの、変わりゆくもの。時間が止まればどんなにいいだろう。 (皆守/學園風景) |
38 : 別れ (64) |
落ちた雫に目を見張って、肩を抱いて慰める。 「必ず帰ってくるか ら」 それでも拒むように首を振る仕草が、ラベンダーの香りを連れ てきた。 (皆守+葉佩/2004年12月31日) |
39 : 欲 (59) |
底は暗く見えず、果ては深く尽きず、ただどろどろと渦巻いて己を支配
する。守りたい、手に入れたい、閉じ込めたい、壊したい、そして。 (皆守) |
40 : 贈り物 (64) |
呪いからの解放も、人と人との繋がりも、かけがえのない思い出も、絶
え間のない明るい声も。ここに溢れる全ての笑顔は、あのとき彼がくれ
たもの。 (天香學園) |
20070428〜0506up |