浅い眠り

























 少し拓けた森の端で、彼を見つけた。最初は、ピサロにもわ
からなかった。大きな木はその姿を守るように佇んでいたし、
緑の葉は彼を隠して包み込んでいた。つまり勇者は樹木にもた
れかかって、うとうとと微睡んでいたのだ。

 思わずため息をついて、ピサロは歩みを進めた。あまりの緊
張感の無さに、呆れることしかできなかった。仲間たちがそれ
なりに心配して、探しているというのに。

 木立と山の向こうに、目指すデスパレスがかすかに見える。
まったく、「先に様子を見にいく」と言っておきながら、こん
なところで惰眠を貪っているとは。

 起こそうとして、やめた。疲れていたのかもしれない。決戦
を前に、よく眠れなかったのかもしれない。もうしばらくすれ
ば、後の仲間が追いつくはずだ。それまでは、そっとしておく
方がいい。

 再度嘆息して、ピサロはその光景をしばらく眺めた。どこか、
一枚の絵のようだった。森で育まれた光、若葉色の髪の勇者は、
驚くほどそこに溶け込んでいた。なるほど自然は全て、彼の味
方なのだと思い知らされる。それは確かに自分とは相容れない
もの、神に属する存在であるはずなのに。

 綺麗だと思うのは、何故だろう。

 ――だからこそ、なのかもしれない。心の底で点滅する既視
感に、ピサロは少し自嘲する。そういえば、あのときもそうだ
った。ロザリーヒルで、彼女と出逢ったときも。

 闇は光を忌み、光を嫌い、光に焦がれ、光を欲する。そんな
矛盾を抱えながら、自分が果たして闇なのかどうか、今のピサ
ロにはわからなかった。

 木漏れ陽が覚醒を促したのか、寝返りを打った勇者の瞳がゆ
っくりと開かれた。彼はかすれた声で何かを呟いたが、遠く馬
車の音を耳にしていたピサロには届かなかった。一瞬その紫水
晶に宿ってすぐ消えた、複雑な色を見ることもなかった。

 哀惜と、憤怒と、行き場のない感情と。

 故郷に似た森に囲まれて彼が見ていた夢を、ピサロは知らな
い。








20040427up


BACK