彼の後ろに道はない

























 無我夢中で戦いを終えると、足元で2ゴールドが跳ねた。

 銅の剣を地面に刺し、もたれかかるようにして、ユーリルは
しばらく息を整える。瞳は何も映さず、魔物の死骸と、その置
き土産を見つめるのみ。

 眠りたい、休みたいと身体が欲していた。眠るな休むな魔物
を屠れと、感情が命令していた。抗う術もなく、視界に飛び込
んできた影に剣を向けた。ただ、それだけだった。

(誰か、僕を)

 絶命した敵の、ガラス玉のような目。

(僕を助けて)

 反射的に拾ったコインに、ぬるりと異質な血の感触。

 こんなことを、何度繰り返せばいいのだろう。これで道が拓
けるのか、自分は救われるのか。どんなに魔物を屠っても、失
ったものは帰らない。過去は変わらず、未来には孤独しか見え
ないというのに。

(世界のことなんか、知らない)

 故郷の村一つ、守れなかった。

(勇者なんかじゃない)


 けれど彼女は、勇者のために死んだ――。


 まだ荒い息で見上げると、東の空が白み始めていた。森の向
こうに、目指すエンドールの城が見える。着いたら情報を集め
て、装備を整えて、すぐ出発しよう。独りきりの旅で見る夢は
悪夢ばかりだ。戦っていれば、全てを忘れられる。戦いに勝て
ば、生きることが許されていると思うから。

 血まみれの手を拭い、ユーリルは歩き出す。道程に築き上げ
た骸の山を、少しだけ振り返った後で。








20040623up


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