木乃伊は暁に再生の夢を見る

5th. Discovery #3










 残っている生徒もまばらな階段を踏んで、文化部のある南棟の四階へ向かう。放課後のセミナーとやらは既に終わった後なのか、電算室はしんと静まり返っていた。
 勝手に扉を開けて入ると、やはりそこには誰もいなかった。ずらりと並んだパソコンに、特に変わったところはなさそうだ。皆守は用心深く辺りを見渡して、眉をひそめて呟いた。
「ここで、一体どうやってウィルスを……」
「ようこそ《隣人倶楽部》へ〜」
 突然扉の方から高い声がして、二人は驚いて振り向いた。九龍が昼休みに焼きそばパンを渡した、あの巨漢の男子生徒が立っている。
「ここは神の牧場、誰もが等しく救われる権利を持つ場所でしゅ」
 にこにこと言った男子生徒は、ふと九龍に気がついた。ぱあっと顔を輝かせて。
「あれ―――? 誰かと思えば、葉佩くんでしゅ!」
 また会えて嬉しいでしゅ、という彼に皆守が驚いた。
「九龍、お前こいつと知り合いなのか?」
「知り合いっつーか、昼休みにちょっと会っただけ」
 何故か詰問するような迫力に押されて、九龍は心持ち後ずさる。
「そういうキミは誰でしゅか?」
「……皆守甲太郎、こいつと八千穂のクラスメートだ」
 皆守は睨みつけるようにして低く言ったが、彼は気にせず微笑んだ。
「そうなんでしゅか、じゃあ八千穂たんがどこにいるか知らないでしゅか? 放課後のセミナーが始まっても姿を見せなかったので、心配してたでしゅ」
「じゃあ、お前が……」
「あ、ボクは三年D組の肥後大蔵でしゅ。ここで《隣人倶楽部》という集まりを主宰してるでしゅ。よかったら今度キミたちもセミナーに遊びに来るでしゅ!」
「……」
 彼がそうだとわかっていたことだったが、九龍は改めて気を引き締めた。悪意は全く感じられないし、本人もわかってないのだろう。八千穂が言っていたように。
「……肥後とかいったな。お前の目的は一体何なんだ」
「何のことでしゅか?」
「人を集め、ウィルスをばら撒き、お前は何をするつもりなのかと訊いてるんだ」
「おい、皆守」
 きつく問い詰める口調に、九龍は思わず割り込んだ。自分でも持て余している苛々をぶつけるつもりなのか、睨みつける皆守の目は剣呑だ。
「ウィルスなんてひどいでしゅ、あれは神の光なのでしゅ」
「……?」
 けれどそれを物ともせずに、肥後は不満そうに唇を尖らせた。皆守が眉を寄せる。
「ボクの作る光はすごいのでしゅ。電気を介して広がって、星のようにきらきらと輝いて、モニターの中に救いを求めるみんなの元に届くのでしゅ。そして、悪いココロなんてあっという間に吸い取ってしまうのでしゅ」
 楽しそうに言う姿は、まるで純粋な子供のようだった。その輝く星の光に、病原微生物が含まれていることを知らないのだろうか。それとも、そうやって生徒たちを衰弱させることが、彼らの幸福への過程だと信じているのだろうか。
「ボクはただ、みんなに幸せになってほしいだけでしゅよ。汝の隣人を愛せ、みんながみんなのために心を開いたら、きっとみんな一緒に幸せになれるでしゅ。そうじゃないでしゅか?」
 欠けている、と九龍は思った。けれど欠けた言葉を教えても、彼は理解しないだろうという確信があった。
 ―――彼の欠片は、きっとあの《墓》の中に。
「お前の言っていることは詭弁にしか聞こえない。お前の言うことに従って、八千穂は結局どうなった? 衰弱しきって、保健室に担ぎ込まれただけだ」
 切り捨てるような皆守の言葉に、肥後は信じられないと目を見開いた。
「ウ、ウソでしゅ! 八千穂たんに、そんなに悪いココロがあるわけないのでしゅ! 八千穂たんは、や……」
 勢いよく反論していた肥後が、ふと頭を抱えるようにして言葉を途切れさせる。どこか苦しげにも見える表情で。
「や……八椎女の最後の一人を救うため、須佐之男命は八塩折を作り―――八握剣を持って、八俣遠呂智を退治したのでしゅ……」
「……お前……」
 文章を読むかのような淡々とした語りに、九龍はすかさず反応した。古事記。スサノオがヤマタノオロチを退治したという話は、天岩戸の次の章だ。つまり、朱堂の次の区画。
「八千穂たんの近くにいると、何かを思い出せそうな気がするのでしゅ。葉佩くん、キミはボクの大切なものを奪いに来た、悪い《転校生》なんでしゅか?」
 九龍は唇を噛み締めた。彼の大切なものが眠るあの遺跡に、無遠慮に踏み入る《転校生》は確かに悪なのかもしれない。けれど、それは奪うためではなく。
 何か言おうと口を開いた九龍を制するように、皆守が肥後を睨みつけた。
「……お前、やはり《執行委員》か。それが何故、こんな真似をする? そもそも八千穂が何の校則を犯したっていうんだ」
「ボクは……ボクはただ、みんなを幸せにしたいだけなんでしゅ。みんなから嫌なココロを集めれば、この學園がもっとよくなってみんな幸せになるって、あの仮面の人が―――
「仮面の人?」
 訝しげに聞き返した言葉に、下校のチャイムが重なった。ちッ、と皆守が舌打ちをする。
「……一般生徒は、早く帰った方がいいでしゅよ」
 何かを思い出すように苦しげな表情をしていた肥後は、ほっとしたような笑顔を作った。皆守は苛立たしげに髪をかき乱して、何も言わず踵を返す。
「……葉佩くん」
 皆守を追おうとした九龍は、かけられた声に振り返った。
「キミからも、何か懐かしい匂いがするのでしゅ。わからないでしゅ……。キミは、《転校生》なんでしゅよね?」
「……ああ」
 その単語がいわゆる『排除すべき者』という意味だけではないように聞こえて、九龍はまっすぐ彼を見つめた。その視線から何かを探るかのように、肥後も見つめ返してくる。
「キミは……キミは、汝の隣人を愛することができるでしゅか?」
 汝、自らを愛するが如く。欠けた言葉を埋めて、九龍は神妙に頷いてみせた。隣でアロマを燻らせながら、黙って皆守がこちらを見ているのがわかる。
「……キミの中の悪いココロが、今夜は騒がないことを祈ってるでしゅ。もしもキミがあの場所に来てしまったら、ボクは、キミを―――
「行こう、九龍」
 肥後の台詞が終わらないまま、皆守が促した。
「このままここに留まったんじゃ、何が起きても文句は言えない。それが《生徒会》の法だからな」
 肥後は何も言わず、電算室を出る二人を見送っていた。




 しばらく互いに無言のまま、黄昏に沈む校舎を後にする。靴を履き替え、中庭に出た辺りで、皆守が独り言のように呟いてきた。
「まったく……《黒い砂》だの仮面野郎だの、一体《執行委員》はどうなってるんだ。そういえば、何番目かの怪談にファントムとかいう仮面男の話があったな。少し前に見たって奴が、大騒ぎしてた気がするが」
「んーと……四番目だな。『四番目の幻影』」
 皆守の言葉を受けて、九龍は《H.A.N.T》を立ち上げて調べてみた。ファントムと呼ばれる救世主が學園を救う、という怪談にしては違和感のある内容だ。肥後の言う『仮面の人』がそのファントムだとしたら、救うどころか悪い方へ導いているのではないだろうか。
「……九龍」
「ん?」
 寮の部屋の前で、立ち止まった皆守が静かに尋ねてくる。
「お前、やっぱり今夜も行くのか?」
「ああ」
 鍵を取り出しながら、九龍は即答して笑ってみせた。
「新しい扉が開くなら、俺は行かざるを得ない。それに、今回はまた取手やリカちゃんのときと同じだと思うんだ。……肥後は、きっと助けを求めてるって」
「……」
 皆守は何も言わなかった。廊下を照らす蛍光灯に、何か陰を落としているような表情だった。やがて、彼はふっと笑って。
「まァ、そう言うだろうとは思ったよ……訊くまでもなかったか」
 どこか諦めたような顔で、ゆっくりとアロマを燻らせる。
「お前みたいな奴は、止めるだけ無駄なのかもしれないな。気が向いたら、俺にも声かけろよ。ベッドに入る前なら、付き合ってやらないこともない」
「……おう、サンキュ」
 礼を言った九龍は、笑いを堪えるのに苦労した。そういう言い方をしつつも、誘えばちゃんと付き合ってくれるのだろう。眠いだのダルいだの、相変わらずの文句を言いながら。
「そういえば皆守はどうだ、タイゾーちゃんの質問」
 ふと思いついて、顔を上げて問いかけてみる。
「お前は汝の隣人を愛せるか? 汝、自らを愛するが如く」
 鍵を開けてノブに手をかけた状態で、九龍は返事を待った。皆守はアロマを吸って、吐き出して、逆に聞き返してくる。
「……愛してほしいのか?」
「へ」
 目を丸くした九龍に、皆守はにやりと意地の悪い笑みを浮かべてみせた。からかうように指を指してくる。
「隣人ってのは、お前のことだろ?」
 勢い、ぽかんと間抜けな顔になった。え、なんでだよ、俺か、俺のことか? いや違うだろ今更何を言ってんだよ、隣人って隣の部屋の人ってわけじゃなくて、こう、漠然とした知り合いって意味だろうが!
 不意打ちされて動揺している九龍を、皆守はおもしろそうに眺めて。
「考えておく」
「あ、そう……ってええッ、なんだよそれ!」
 慌てた九龍に揶揄の笑みを残すと、皆守はじゃあなと言って部屋の中に消えた。残された九龍はしばらくそこで固まって、ぐっと拳を握り締める。
 なんかその手の冗談は俺の得意技だったはずなのに、最近は皆守に通じないどころか、逆に遊ばれてるような気がする!
 ちくしょう絶対リベンジしてやる、などと誓いながら、九龍は自室のドアを開けた。




 八千穂を見舞いに女子寮に行くと、彼女は肥後の様子をしきりに気にしていた。彼が《執行委員》であることは、既に薄々勘づいていたようだ。墓地に行くなら誘ってね、と言っていたが、九龍は声をかけるつもりはなかった。衰弱している上に、倒れたばかりなのだ。無理をさせるわけにはいかない。
 皆守を誘うとまたカレーを食べさせられそうなので、一人でマミーズを訪れる。無視して別のメニューを頼めばいいのだが、その後のあからさまな不機嫌具合と、傍若無人なトッピングが怖いのだ。ラーメンやオムレツならまだしも、あいつは寿司とかイクラ丼にもカレーかけてきそうからな。んで、そっちの方が美味いだろって笑うんだよきっと。
 マミーズでは、ちょうど取手が一人で夕飯中だった。一緒していいかなと笑うと、慌てた様子で頷いた。
「は……葉佩君は、いつも皆守君と一緒だと思ってた」
「いつも……てわけじゃないけど、あいつと飯食うと絶対カレーなんだよな。取手はオムレツか? じゃ俺もそれで!」
 向かい側の席に座り、舞草に注文を頼む。九龍を待つつもりなのか、取手は食べかけていた箸を置いた。
「いや冷めるぞ、先に食えよ」
「ううん、いいんだ。それよりあの……葉佩君、実は君に相談にのってもらいたいことがあるんだけど」
「ん?」
 俺でいいのかな、と九龍は首を傾げた。取手は少し微笑んで。
「さっき、音楽の先生に言われたんだ。これからもピアノを続けてゆくつもりなら、指を大切にしなさいって。球技、特にバスケのような激しいものはよくないって」
「ああ、だろうな。ピアニストにとって、指は命だろうし……」
 言ってから、九龍は取手の姉を思い出す。あまり触れない方がよかっただろうか。そう思ったが、取手が気にした様子はないようだ。
「確かに、先生の言うことにも一理あると思うんだ。でも、僕は……ねえ葉佩君、もしも君が僕と同じ立場に立ったとしたら、どうする? バスケをやめる? ピアノをやめる?」
「うーん……取手は、どっちも好きなんだよな?」
 水を一口飲んで、九龍は頷いた取手に笑ってみせた。
「だったら先生の言うことなんて気にせずに、両方続けたらいいと思う。二兎を追うもの一兎も得ずって言葉もあるけど、好きなものは好きなんだから。要は、好きって気持ちが大切なんじゃないかな」
「葉佩君……」
 半ば呆然と九龍の言葉を聞いていた取手は、微笑みながら頬を染めた。
「ははッ、君は欲張りなんだね……でも、僕も人のことは言えないかもしれないな。改めて思ったよ、簡単に片方を諦められるくらいなら、そもそも悩んだりしない―――ってね」
 晴れ晴れとした表情で、取手は九龍に握手を求めてきた。
「ありがとう、葉佩君。君は、また僕の悩みを一つ消してくれたね」
 言って、そっと手を握られる。バスケットボールプレイヤーであり、ピアニストでもある綺麗な指。それは精氣を奪い、与える力を持つ両手。どこか温かく不思議なその感覚を、九龍はぼんやりと受け止めた。
「そういえば―――《隣人倶楽部》の噂を聞いたかい?」
「……ああ」
 手を握り締めたまま、取手が神妙な顔で切り出してくる。九龍が頷くと、彼もまた頷いて。
「セミナーに参加している者たちは、自分たちが痩せ衰えてゆくのは、悪い魂が排出されたせいだと思って喜んでいるらしいんだ。そうやって、やがては良い魂だけの存在になれるらしいんだけど……実際はどうなんだろうね」
 目を伏せて呟くと、取手は握っていた手を強く握り直した。
「葉佩君、僕の力が必要になったときはいつでも呼んでほしい。君には、借りがあるからね」
「……ありがとう」
 その手を握り返して、にっこり笑う。取手の頬がますます赤くなったように見えた。
「葉佩くんって、男の子にもモテモテなんですね〜!」
 オムレツを運んできた舞草が、開口一番無邪気にそう言った。場所を空けるべく手を離したタイミングで、九龍は思わず机に突っ伏したくなる。が。
「でも葉佩くんは、皆守くんと付き合ってるって噂を耳にしてたんですけどォ〜」
 その発言に、今度こそテーブルで額を打った。な、なんなんだその噂!
「生徒さんたちが話してるのを聞いたんですよ、なんでも朱堂くんが皆守くんに恋のライバル宣言したとか」
 机に突っ伏して脱力したまま、九龍は苦笑せざるをえなかった。あああ、噂の発生元はすどりんかな、すどりんだろうな。なんか昼休み、勝手に盛り上がってたもんな……。
「え……そうだったのかい? 皆守君と葉佩君って……」
「違う違う、誤解誤解!」
 真面目に聞いてきた取手に、九龍は慌てて顔を上げて否定した。
「え〜、違うんですかァ〜? お二人って仲いいから、本気にしちゃってました〜」
「本気にしないで奈々子ちゃん……俺今普通に彼女募集中だから」
「ホントですか、きゃ〜立候補しちゃおうかな〜」
「喜んで!」
 顔を赤らめている舞草は、相変わらず本気なのか冗談なのかよくわからなかったが、九龍は笑って歓迎した。しかし女の子ならまだしも、なんで皆守とそんな噂が立つかなまったく。
 内心ため息をつきながら、とりあえず今晩の探索に朱堂を誘ってみようかと考える。噂が大きくなる前に、誤解は早めに解いておいた方がいいだろう。……すどりんのことだから、そう簡単には解けないんだろうけどさ。ていうかしまった、あんな狭い場所で二人きりだと俺も非常に(←ここ四倍角)怖いんで、誰かもう一人誘わないと。
 幸せそうにオムレツを食べている、目の前の友人にふと目を向ける。
「取手、今晩暇か?」
「……え」
「例の場所、付き合ってほしいんだけど」
 こっそり耳打ちすると、取手はぱあっと顔を輝かせて、また嬉しそうに手を握ってきた。それを見ていた舞草は、トレイを落としかけるほど驚いたらしく。
「えッ、本命は実は皆守くんじゃなくて取手くんなんですか?」
 ―――再度、九龍はテーブルで額を打つはめになる。




 探索態勢を整えて墓地に着くと、何故かそこには朱堂と取手と皆守が待っていた。先日手に入れたばかりの大剣を背負い直して、九龍は月明かりに首を傾げる。あれ? 俺がメール送ったの、すどりんと取手だけなんだけど。
「ちょうど、コイツが寮を抜け出すところに出くわしたんでな」
「なによ皆守甲太郎ッ、呼ばれてもいないくせに! アタシと葉佩ちゃんの遺跡デートを邪魔しないでェェッ!」
 皆守に顎で指された朱堂は、敵意を剥き出しにしてわめいている。すっかりライバル決定、といったところだろうか。……なんだかなあ。
「お前、アレを連れてくのはヤバイぞ?」
 朱堂を横目に、皆守が耳打ちするように囁いてきた。
「それとも、そういう趣味でもあったのか?」
「まさか! 二人きりは遠慮したいから、取手も誘ったんだけど」
「……取手で大丈夫なのか?」
 皆守の言葉に取手を見ると、彼は相変わらずほのぼのとした雰囲気で、朱堂君も葉佩君のこと好きなんだね、となんだか和んでいる。背景に花畑が見えるような気もする。え、えーと、確かにちょっと人選誤った? リカちゃんの方がよかったかな……。
「とりあえず、朱堂はやめとけ」
「でもさ、誤解は早めに解いておいた方がいいと思って」
「誤解?」
 訝しげな顔をした皆守に、九龍の苦笑がますます濃くなった。
「なんか、俺と皆守が付き合ってるって噂。すどりんから流れたみたいで」
「………………は?」
 なんだそれは、と皆守は思いっきり眉をしかめた。すぐにじろりと朱堂を睨みつけて、大げさに息を吐いて。
「……わかった、そういうことなら俺が一緒に行く。取手、お前は帰れ」
「え」
 驚いたのは取手だけではなく、九龍もである。
「誤解など、したい奴にさせとけばいい。人の噂なんてのもすぐ消える。が、コイツはあることないこと広めるに決まってるからな。今のうちにしっかりわからせておいた方がいい」
 そう言う皆守の目は剣呑な光を宿していて、有無を言わさない強さがあった。それに気づいているのかいないのか、取手はふわりと微笑んで。
「うん、皆守君が一緒なら安心だね。葉佩君をよろしく」
「ああ」
 保健室仲間はすぐ納得し合ったらしいが、慌てたのは九龍である。待て、皆守が一緒だったら逆効果じゃないか? すどりんが余計に誤解することにならないか?
「じゃ、行くぞ」
 九龍の意見など全く聞かずに、皆守は真っ先に降りていってしまった。え、何その素早さ。何そのやる気。
「ああん待って、葉佩ちゃんを賭けて勝負よッ!」
 続いて、勝手に盛り上がった朱堂がひらりと墓石の下へ消える。残された九龍は苦笑して、脱力して、改めて取手に向き直った。
「……悪いな、せっかく来てもらったのに」
「ううん、いいんだ。僕も葉佩君の力になりたかったけど、一番大切なのは、君が無事戻ってくることだから。だから、きっと、皆守君なら安心して任せられる」
「そ、そうか」
 まあ、確かに皆守はあれでいて心配性で過保護だからな。そういうところがまた、すどりんの誤解を呼びそうな気がするんだけど。
 そんなことを思いながら、九龍は取手に手を振って、遺跡の中へ身を躍らせた。






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20130426up


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